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福島地方裁判所白河支部 昭和46年(ワ)95号 判決

原告

渡辺キノエ

被告

安藤昇

ほか一名

主文

1  被告らは各自、原告に対し金四五八、八九五円およびこれに対する昭和四六年七月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを一〇分し、その五を被告らの連帯負担、その余を原告の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、原告において各被告に対し夫々金一五〇、〇〇〇円宛の担保を供するときは、その被告に対し仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告らは各自、原告に対し金九二九、九九二円およびこれに対する昭和四六年七月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の事実上の主張

一  原告の請求原因

(一)  原告は昭和四五年一月八日午後五時二五分頃須賀川市妙見六八番地附近道路に存するバス停留所においてバス待ちのため佇立していたところ、被告安藤昇運転にかかる自動二輪車(福島こ第一、六二三号)に衝突され、頭部打撲、脳内出血、大腿部および腰部打撲の傷害を蒙つた。

(二)

1  被告安藤昇は前記日時場所において前記自動二輪車を運転して須賀川市方向から西白河郡石川町方向に向い進行中、前方を注視して運転すべき注意義務があるのにこれを怠り、対向車両にのみ注視して運転進行したため、同所路端に存するバス停留所に佇立していた原告を発見することができず、前記自動二輪車を原告に衝突せしめたものであるから、被告は民法第七〇九条により、原告が本件事故により蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

2  被告安藤松吉は右自動二輪車を所有し、これを運行の用に供していたものであるところ、本件事故はその運行により生じたものであるから、被告安藤松吉は自動車損害賠償保障法第三条により、原告が本件事故により蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(三)  原告の損害額

1 治療費

原告は本件傷害の治療のため昭和四五年一月八日から同年三月四日迄公立岩瀬病院に入院し、以来昭和四六年五月一二日迄同病院に通院し、次いでその後太田綜合病院において診療を受けた。

その結果原告は右診療費として、公立岩瀬病院に計金一三、四〇三円、太田綜合病院に計金九、三〇五円合計金二二、七〇八円を支払つた。

2 入院諸雑費

原告は前記の如く昭和四五年一月八日から同年三月四日迄の間入院したのであるが、その間入院中諸雑費として合計金一八、九〇〇円を支出した。

3 付添看護費

原告は前記入院中付添看護を要したが、付添看護費として合計金七五、〇〇〇円を支出した。

4 診断書料

原告は太田綜合病院から診断書の交付を受け、そのため金一、〇〇〇円を支出した。

5 逸失利益

(1) 原告は本件事故当時西白河郡西郷村所在新甲子温泉ホテル甲雲に女中として稼働し、月平均金二四、〇〇〇円の給料を得ていたものであるところ、本件受傷のため昭和四五年一月八日から昭和四六年六月三〇日迄稼働することができず、そのためその間の得べかりし給料合計金四二五、六〇〇円を得られなかつた。

(2) 原告は前記の如く治療を受けたが昭和四六年六月末頃症状固定し、後遺症として自動車損害賠償保障法施行令別表第一四級に相当する脳波異常、不定愁訴、大後頭神経圧痛等を残するにいたり、その結果、原告の労働能力は昭和四六年七月一日以降二年間その一〇〇分の五を喪失するにいたつた。

従つてその過失額をホフマン式により算出すれば、金二六、七八四円となる。

24,000円×12月×5/100×1.8614=26,784円

6 慰藉料

原告は本件事故により前記の如く入院、通院を余儀なくされたうえ、後遺症を残すにいたつたことのため精神的苦痛を蒙つたものであつて、これを慰藉するには金四〇〇、〇〇〇円の支払が必要である。

7 填補

原告は昭和四六年一二月保険会社から金一九〇、〇〇〇円の賠償支払を受けたので、原告はこれを右慰藉料金四〇〇、〇〇〇円のうち金一九〇、〇〇〇円相当部分に充当した。

8 弁護士費用

原告は被告らに対し本件損害賠償の履行方を求めたが、その支払を得られなかつたので、原告はやむなく、弁護士鈴木富昌に対しその訴提起方を委任し、着手金として金一〇〇、〇〇〇円を支払いかつ謝金五〇、〇〇〇円の支払を約した。

(四)  よつて原告は被告ら各自に対し右損害残額合計金九二九、九九二円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四六年七月三〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

(一)

1  被告安藤昇

第一項の事実中、被告安藤昇が原告主張日時場所において原告主張の自動二輪車を運転中、これを原告に衝突せしめたこと、よつて原告が頭部打撲の傷害を受けたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第二項の1のうち、被告安藤昇が本件事故の際、前方を注視すべき義務を怠つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三項のうち、原告がその主張の如く公立岩瀬病院に入院したことは認めるが、その余の事実は否認する。

2  被告安藤松吉

第一項の事実のうち被告安藤昇が本件事故当時本件自動二輪車を運転していたことは認めるが、その余の事実は知らない。

第二項の2のうち被告安藤松吉は本件自動二輪車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたものであることは認めるが、その余の事実は否認する。

第三項の事実は否認する。

(二)  過失相殺

原告は本件事故当時本件事故現場附近は車両の往来が頻繁でありかつ薄暮であつたのであるから、本件現場附近において道路を歩行横断せんとするときは、横断歩道を通行することは勿論、常に車両の進行状況を十分注視して歩行横断すべき注意義務があるのにこれを怠り、附近に横断歩道があつたのにこれを通らず、漫然道路中央に進み出たため、被告安藤昇運転の本件自動二輪車に衝突したものであつて、本件事故発生については原告にも過失が存する。従つて本件事故による損害賠償額の算定については、これを斟酌すべきである。

三  被告らの主張に対する原告の答弁

被告らの主張事実は否認する。

第三立証〔略〕

理由

一  (交通事故の発生)

原告が昭和四五年一月八日午後五時二五分頃須賀川市妙見六八番地附近道路を歩行中、被告安藤昇運転の自動二輪車(福島こ第一、六二三号)と衝突し、頭部打撲、脳内出血、大腿部および腰部打撲の傷害を蒙つたことは、原告と被告安藤昇との間において争いがなく、原告と被告安藤松吉との間においては、〔証拠略〕によりこれを認めることができる。

二  (賠償責任)

(一)  被告安藤昇につき、

〔証拠略〕によれば、被告安藤昇は須賀川市八幡町所在岩井工務店に土工として勤務し、その通勤には自己の同居の父である被告安藤松吉所有の前記自動二輪車を使用していたものであるところ、本件事故当日である前記昭和四五年一月八日午後五時二五分頃右勤務先から肩書自宅に帰るべく右自動二輪車を運転し須賀川市妙見六八番地附近道路を時速約五〇粁で東進したこと、しかるところ被告安藤昇は自己の前方約三五、八〇米の同道路左(被告安藤昇の進行方向に向い)端附近に原告が佇立しているのを認めたうえ、更らに約八、四〇米進行し、原告との距離約二六、六米まで接近した際原告が道路を横断せんとして道路中央附近に向つているのを認めたのであるが、このような場合においては自動二輪車の運転者としては原告との衝突を避けるためその動静に注視し、減速して運転進行すべき注意義務があるのに、漫然原告において横断を中止してくれるものと軽信し、同一速度で進行したため、原告との距離約二一、八米に接近して初めて衝突の危険を感じ急停止の措置を採つたが及ばず、同道路中央附近においてその自動二輪車の前部を原告に衝突せしめたものであることが認められ、右事実によれば、被告安藤昇は本件衝突事故につき自動二輪車運転上の過失があるものというべきであるから、原告が本件衝突事故により蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

(二)  被告安藤松吉につき、

前記被告安藤昇運の自動二輪車は被告安藤松吉の所有であることは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によれば、被告安藤昇は被告安藤松吉の同居の子で、須賀川市八幡町所在岩井工務店に勤務しているものであるところ、その通勤に本件自動二輪車を使用していたもので、本件事故の際もその勤務先から自宅へ帰る途中であつたことは前示認定の通りであるから、他に特段の事情の認められない本件においては、被告安藤松吉は被告安藤昇が本件自動二輪車を運転するのを許容し、以て自己のために運行の用に供していた者であるというべきである。

従つて被告安藤松吉は自動車損害賠償保障法第三条により、原告が本件衝突事故により蒙つた損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

三  (原告の損害)

(一)  治療費

原告が前記傷害治療のため昭和四五年一月八日から同年三月四日迄公立岩瀬病院に入院したことは原告と被告安藤昇との間においては争いがなく、原告と被告安藤松吉との間においては〔証拠略〕によりこれを認めることができる。

又〔証拠略〕によれば、原告は同様に前記公立岩瀬病院退院後も引続き同年三月二九頃まで同病院に通院治療を受け、次いで昭和四六年六月二九日および同月三〇日太田綜合病院において診療を受けたものであること、その結果原告はその間において公立岩瀬病院に対し治療費計金一三、四〇三円、太田綜合病院に対し同計金九、三〇五円以上合計金二二、七〇八円の支払をしたことが認められる。

(二)  入院諸雑費

原告が前記傷害治療のため昭和四五年一月八日から同年三月四日迄入院したことは前示のとおりであるところ、原告本人尋問の結果によれば、右五六日間にわたる入院中雑費の支出を要したことが認められる。しかして、前示入院期間、傷害の程度に鑑みるとそのうち本件において賠償を求め得べき範囲は一日当り金二五〇円の割合で計金一四、〇〇〇円を以て相当と考えられる。(250円×56日=14,000円)

(三)  付添看護費

〔証拠略〕によれば、原告は前記入院期間のうち計五〇日間にわたり娘である訴外小口光子の付添看護を受け、同女に対しその謝金として一日当り金一、五〇〇円の割合で計金七五、〇〇〇円の支払をしたことが認められるが、しかし同証拠によれば、原告は右入院期間のうち付添看護を要したのは二週間のみであつて、その余の期間は訴外小口光子において母である原告を案じて任意に世話をする目的で付添看護に当つたものであることが認められるから、原告が賠償を求め得べき範囲は一日当り金一、五〇〇円の割合で二週間分計金二一、〇〇〇円であるというべきである。

(四)  診断書料

〔証拠略〕によれば原告は後記後遺症に基く自動車損害賠償責任保険金の請求手続のため太田綜合病院から診断書〔証拠略〕の交付を受け、その費用として金一、〇〇〇円を支払つたことが認められる。

(五)  逸失利益

1  〔証拠略〕によれば、原告は本件事故当時西白河郡西郷村所在の「ホテル甲雲」に女中として稼働し、月平均金二四、〇〇〇円の給料を得ていたものであるところ前記受傷のため昭和四五年一月九日から昭和四六年六月三〇日迄の間稼働することができなかつたことが認められるから、原告はその間得べかりし給料計金四二五、八〇七円を喪つたものということができる。

(24,000円×17ケ月+24,000円×23/31=425,807円)

2  〔証拠略〕によれば、原告は前示の如く治療を受けたが、昭和四六年六月末頃症状固定し、後遺症として脳波異常、不定愁訴、大後頭部神経圧痛等を残すにいたつたことが認められるから、その結果原告の労働能力は昭和四六年七月一日以降二年間にわたりその一〇〇分の五を失つたものというべく、してみると、その逸失額を民事法定利率による単利年金現価をホフマン式により算出すれば金二六、八〇四円となる。

(24,000円×12ケ月×5/100×1.8614=26,804円)

(六)  (過失相殺)

前示認定によれば、原告は合計金五一一、一一九円の損害を蒙つたことが明らかであるところ、〔証拠略〕によれば、原告は前示昭和四五年一月八日午後五時二五分頃須賀川市妙見六五番地附近においてバスから降り、同道路北縁において佇立したうえ、更らに同所で南側に歩行横断せんとしたものであるが、本件事故当時本件事故現場附近は薄暮でかつバス等の交通が頻繁であつたのであるから、このような場合において道路を横断歩道によらずに歩行横断せんとするときは、進行して来る車両のあることを十分に予想し、道路の左右を注視し歩行の安全を確認しつつ横断すべき注意義務があるものというべきところ、原告は前記被告安藤昇運転の自動二輪車が原告の右方(原告の横断方向に向い)から東進して来て原告との距離約二六、六米の地点まで接近していたのに拘らずこれを注視せず、漫然道路中央部に向い小走りに進出したため、被告安藤昇運転の自動二輪に衝突されるにいたつたものであることが認められるから、原告の右のような過失も亦本件事故の一因をなしたものというべきである。しかして本件賠償額の算定については右原告の過失を斟酌すると、その二〇%を減額するのが相当と考えられるから、右賠償額は結局金四〇八、八九五円となる。

(七)  慰藉料

〔証拠略〕によれば、原告は当五七才の婦人で、本件事故当時旅館女中として稼働していたものであることが認められ、これに原告の前記受傷の程度、入院および通院の期間、後遺症、原告の過失の程度を考慮すると原告が本件事故により蒙つた精神的苦痛は金二〇〇、〇〇〇円の支払を以て慰藉されるのが相当と考えられる。

(八)  填補

原告が昭和四六年一二月保険会社から金一九〇、〇〇〇円の賠償を受け、これを慰藉料のうち金一九〇、〇〇〇円に充当したことは原告の自認するところである。

(九)  弁護士費用

以上認定の事実によれば原告は被告ら各自に対し合計金四一八、八九五円の損害賠償請求債権を取得したものというべきところ、原告、被告ら各本人尋問の結果によれば、原告は被告らに対し右損害賠償を請求したが、被告らは金一〇〇、〇〇〇円程度以上の賠償には応じ難い旨言明したため、原告は弁護士鈴木富昌に本件訴提起方を委任し、着手金一〇〇、〇〇〇円を支払いかつ謝金五〇、〇〇〇円の支払を約したことが認められる。自動車の運行およびその過失によつて身体が害された場合の被害者が損害賠償請求のため訴を余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のものに限り右事故と相当因果関係に立つ損害というべきである。しかるところ本件事案、請求額および認容額その他諸般の事情を勘案すれば、右費用のうち本件事故による損害として賠償を求め得べき範囲は金四〇、〇〇〇円を以て相当と考えられる。

四  (結論)

以上の次第であるから原告の本訴請求は被告ら各自に対し、合計金四五八、八九五円およびこれに対する本訴状送達の翌日たること本件記録上明らかな昭和四六年七月三〇日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて訴訟費用の負担につき民訴法第九二条、第九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 磯部喬)

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